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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(行ツ)68号 判決 1967年3月07日

大阪市都島区高倉町一丁目一〇四番地

上告人

馬場良之

大阪市東区大手前之町一番地

被上告人

大阪国税局長

高木文雄

右当事者間の大阪高等裁判所昭和三九年(行コ)第六六号所得税課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四一年五月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

論旨は、原審が上告人本人尋問の申出を採用しなかつたことが採証法則に違反するという。

しかし、当事者の申し出た証拠がいわゆる唯一の証拠方法でない場合には、審理の経過等からみて必要がないと認めるときは、その取調べを要しないこと民訴法二五九条の規定に徴して疑いを容れないところである。そして、上告人が原審において申し出た上告人本人尋問は、唯一の証拠方法にあたらないのみならず、同尋問がすでに第一審で二回にわたり行なわれていること記録上明らかである。したがつて、原審が上告人本人尋問の申出を採用しなかつたことは、違法でないというべきである。

されば、論旨は、理由がない。

同第二点及び第三点について。

論旨は、本件貸金利子が上告人の所得に帰属するとした原審の認定判断に釈明義務違反、経験則違背の違法がある、という。

しかし、原審の右認定は、挙示の証拠に照合すれば、十分是認することができ、その判断の過程にも所論の違法あるを見出し得ない。

されば、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

(昭和四一年(行ツ)第六八号 上告人 馬場良之)

上告人の上告理由

第一点 原判決は、上告人の松島政治郎の住所職業が判明したことについての主張は、原審における証人松島政治郎の証言によれば、同人は昭和二一年頃から今日まで、上告人と同町内である吹田市内本町二丁目一番地の七に店舗を構えて引続き鶏卵卸商を営み昭和二二年頃から親交がありその店舗を熟知していたから、上告人が原審に至つて始めて松島の住所等が判明したように主張するのは、とうていそのまま採用し難いところであると判示した。

しかし、原審は上告人の右主張事実に対し、証人松島政治郎の証言のみを信用して上告人の右主張を採用しなかつた。上告人は原審においても上告人の尋問を申請し、上告人の主張を証明しようとした。けれども、原審はこれを何故か採用しないで、証人松島の証言をもつて事実の真相を洞察し得たとしてか上告人の尋問の申請を斥け、証人松島の証言を信用して上告人の主張を採用しない結果となつたのであるが、上告人を尋問したならば全部とはいえないまでも或る事実については証拠資料を得られたかもわからなかつたのである。従つて、原審は上告人の尋問をなさず、その結果を待たず、証人松島の証言のみを信用し上告人にとつては根本となる重要な主張事実を採用しなかつたのである。かかることは自由心証主義の精神にはずれ恣意な採証であつて採証に違法があると信じる。

第二点 原判決は、上告人がその主張のように橘屋に対する右貸金の取次をしただけであるとするならば、上告人としては、橘屋に対し松島の住所を明らかにしても一向に差支えはなかつたはずであつて、これをことさらにかくす必要もなかつたものと思われるとする。ところが、上告人は、これまで極力これをかくしていたものであるが、この点については何等納得のいく説明はないとする。

上告人が松島の名をかくす必要があつたとの主張は本件では重要な根幹となる事実であるから、原審において納得がいかないならば、釈明されるべき事実であつて、釈明義務があると考える。従つて、原判決には釈明義務の違反する違法がある。のみならず、証人松島が自己の名義を出さないよう上告人に要求したことはないとの証言を採用して、これに対し、かかる重要な事実につき原審が上告人本人尋問の請求を採用しなかつたことはこれによつて得られるかも知れない証拠資料の顕出を敢て排除した結果となり、採証についての違法がある。

第三点 原判決は、本件七通の手形ははじめから藤本の手許にあつたのではなく、全部上告人がこれを所持していたものではないかとの疑をいれる余地が十分あるとする。しかし、他人の多額の手形を、しかも数通所持するに至り、これを従前から所持する手形と一括して他に使用する場合、従来所持する手形と新たに所持するに至つた手形とを混同することがあろうことは、経験則上容易に首肯できるところである。原判決は上告人が本件七通の手形につき混同を見た事実を掴えて、上告人が本件七通の手形全部を始めから所持していたものではないかとの疑を容れたことは経験法則に違背する違法がある。 以上

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